2010年02月24日

ジャズ名盤20(1990-2009)第二回発表ベスト8 [Midnight without you] 【心の懊悩をさらけ出す一枚】

男のセクシーさには二種類あって、強靭な肉体でセクシーというマイルス・デイヴィスのような人もいれば、危なくて退廃的でセクシーというチェット・ベイカーのようなタイプもある。

あ!ちなみに今日書いているのはロック小僧の私です。ギタリストとトランペッターは私に書かせてくださいと女王様にお願いしましたので。



それでチェットベーカーが1988年に亡くなってから久しく後者のタイプがいないなあ、と思っていたら出ました出ました。待ちに待ったスーパースターが彗星のごとく。

Midnight without You. Chris Botti. 1997. Verve.
Midnight Without You
Midnight Without You


というわけで、クリスボッティのこれは二枚目になるのかな。1962年生まれの彼はリーダーとしてデビューしたのは遅かったようで33歳ぐらいの1995年に最初のアルバムを出した。

それでこれが二枚目。ジャケットを見るとちょっと疲れというかしわが顔に目立つ。若者風の服装をしていて、髪も変に長髪なのが不自然で、最近のクリスボッティ・イン・ボストンのようにびしっとスーツを着てしゃきっとしているほうがセクシーさが増すと思う。男は40からがかっこいいなんて女王様が言っていたが、まさにそんな感じ。

Chris Botti in Boston [CD+DVD]
Chris Botti in Boston [CD+DVD]

なんで妙に今回セクシーさにこだわるかというと彼のトランペットが非常に高い技巧で、物憂げに、寂しげに吹ききるからだ。トランペットといえば火の玉のように落雷のようにバリバリ吹くこともできれば、こういう物憂げに吹くこともできる。サックスもある程度できるとは思うが音を出す原理からしてトランペットのほうが物憂げに吹く表現力が高い。

わざとなのか地でやっているのかはこのアルバムだけでは判断できないが、まるで物思いに沈む、深い深い黙考に沈む、言葉にうまくできない心の奥の感情に触れてそれが何か探りあててみる。そんな感じの音色をいともあっさりと出してくれる。

音作りがユーロ調といわれているようだけど、確かにアメリカのジャズのすかっとしたものとは180度違っていて、ヨーロッパの秋の夕暮れの森や川が見えるような曲が並ぶ。

一曲目のThe Steps of Positanoからして、キーボードの悲しい白玉が流れ、クリスのペットが最初の一音を奏でた瞬間、「おお!?チェットベイカーが生き返った?」と思ってしまった。明らかにCTI時代のチェットがスタジオワークでこなしていた「アランフエス協奏曲」(過去記事参照)などのヨーロッパの幻想風の曲と重なる。

きっとわざとだとは思うんだが、あまりにも美しすぎて、そのわざとなんだろうという疑いがだんだん消えていく。さすがに一曲目からこれだと暗すぎると思うのか、二曲目歌入りのMidnight without youは、なんとなくトム・ぺティあたりがけだるく歌うアメリカン・ポップス風になっている。三曲目Regroovableも無理して明るくしているが、後はどんどんヨーロッパの薄暗い石畳の街や森を頭をかがめて通り抜けるような曲が並ぶ。

日本人の持っているマイナー志向の曲回しの感覚にも馴染む。そんな中で、9曲目の女性歌入りのForgivenは最高だ。曲自体がセクシーというのはどういうものか、知りたければこれを聞いて欲しい。曲がセクシーというより心の懊悩をメロディーに載せるとこうなるんだという見本と言ってもいいのかも。これ以上心の内部を音にしてくれたジャズの曲はまだ知らない(もっといろいろ聞けよというだけかもしれないが)。

ああ、また一曲目から戻って陰鬱な懊悩に包まれたい。


[スイングジャーナル誌ランキング:うーん・・・]

[初心者・入門者へのお勧め度:チェットの再来のような気で聞いてしまうし、実はわざとやっているのではないかと思う奏法もだんだん聞いていると気持ちよくなり、次のアルバムを買いたくなる一枚]






posted by ロック小僧 at 19:34| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ名盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月17日

ジャズ名盤20(1990-2009)第二回発表ベスト7 [Soulful Strut] 【軽やかな中に意地を感じさせる一枚】

90年代はジャズをずっと牽引してきた大物たちがどんどんなくなっていく悲しい時代だったわ。



1996年にエラ・フィッツジェラルドが亡くなって。本当に世界が変わっていくんだなあって気がした。何か自分の心にぽかっと穴が開いた感じ。

Soulful Strut. Groover, Washington Jr. 1996. Columbia.
Soulful Strut
Soulful Strut

グローバー・ワシントン・ジュニアが亡くなったのは99年だわね。まだ50代なのに亡くなってしまうなんて本当に残念。今でこそスムーズジャズの父なんて言われているけど90年代にスムーズジャズが商業ベースに乗って一定のマスを獲得してここからもっと面白い方向に行ったかもしれないと思うときにと思うと、とても残念。

この後にクリスマスコレクションとかクラッシクを演奏したものはあるんだけど、彼のジャズらしいアルバムとしては最後のスタジオ盤ともいえるわね。一曲目のSoulful StrutとかCan you stop the rainとかポップスでもうみんななじみのある曲。Can you stop the rainの元歌のピーボ・ブライソンの歌い方も芸術的だけど、グローバーのサックスはそれ以上に歌っている。歌の細かいところを再現するだけじゃなくて、明らかに彼自身の「歌」を乗せている。

グローバーは決して聞きやすい短い曲だけをやる人じゃなくて、モータウン時代を思い出してくれれば分かるけど、もともとファンクとプログレッシブロックを足してサックスで吹き通すような音楽をやっていた。その片鱗は彼自身とベースを担当しているGary Hasseが書いた六曲目Village Grooveに色濃く伺えるわ。それから同じGary Hasseが書いた七曲目Headman's Hauntなんかもかなりファンクよね。最後の参加アーティストみんなで書いたUptownも相当野性味のある吹きまくりの曲。昔ながらのモータウン時代の「ミスター・マジック」[過去記事があるわよ!]からのファンなんかはこういう曲のほうがいいわよね。

Mister Magic
Mister Magic

え、昔のCDの紹介はいらない?彼はスムーズジャズの父でいいじゃないか、無理やり昔やってたファンクと結びつけるなって?何言ってんの。スムーズジャズなんて今は言っているけど先駆者は試行錯誤したりジャズじゃないと罵倒されたりウケ狙いだといわれたのをじっと我慢してやってきたのよ。忍耐よ忍耐。できる?

でも彼はポップスをインストにアレンジしたものでも自作のちょっと長めのファンクを感じさせる曲でもきっと楽しんで吹いていると思うわ。どっちかを無理してやっているわけじゃないと思うの。たまたま最初の二曲の歌入りのほうを知っていたり、昔のファンクの曲風を知っているとそう思ってしまうけど、今耳が敏感で心が真っ白なティーンの子達に聞かせたらそんなこと分からないと思う。そういう変なこだわりがなくなったところが90年代の良いところだもの。

バックの音的にも不自然じゃなくて完全に90年代の音楽に溶け込んでいる一枚ね。そういう意味でスムーズと呼ぶことになったのかも・・・

[スイングジャーナル誌ランキング:ここについては何も言うことないわ]

[初心者・入門者へのお勧め度:軽い気持ちで聞いてもいいし、テクニックや表現力に圧倒されるのも良いし。両方まとめてできるすごい人だと思う]




posted by ロック小僧 at 20:12| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ名盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月10日

ジャズ名盤20(1990-2009)第二回発表ベスト6 [Side by Side] 【超高速のガラス職人三人が造る独自の世界の一枚】

 ギターとトランペットのアルバムは私が担当して、それ以外では女王の教室の女王様がレヴューを書いていくというスタイルで今回やり始めて、やっと久しぶりに私の出番が来た!

とはいえ、やっぱり少女時代からジャズに浸っていた女王様のレヴューは中々私のようなただのロック小僧が考え付くものではなく人生の大切な歩みのようなものに触れているようで恐れ入る。




でも、もう少しギターの出番を増やしてよ、ぶつぶつ・・・

90年代からは信じられないほどの数のジャズギタリストがデビューしてもうフュージョンだのジャズだのの縛りがなくなってどんな形でもとりあえずはアリのような感じになってはいるが、やっぱり70年代−80年代に活躍したベテランがピークを迎える一枚を聞いてみたいものだ。

The Guitar Trio. Paco de Lucia, Al Di Meola, John McLaughlin. Polydor. 1996.

Guitar Trio: Paco de Lucia/John McLaughlin/Al Di Meola
Guitar Trio: Paco de Lucia/John McLaughlin/Al Di Meola

というわけで、パコ・デ・ルチア、アル・ディメオラ、ジョン・マクラフリンのギタートリオ。1980年に出したフライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコと同じ面子で再び集まった。

フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ〜スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!
フライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコ〜スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!

前作では実は二人で弾いている曲が多く、三人でそろって弾いているものはあまりなかったのだが(いや、実はこれは最近知ったことで高校生の時に初めて聞いたときはてっきり全部三人でやっていると思っていた)、今回はリクエストに答えてなのか、タイトルに偽りなしにするためなのか、クレジットから見ると少なくとも全9曲中6曲は三人で演奏している。

その分いろいろなところが細かく切り分けられていて、それぞれが弾くフレーズがガラス細工のように、しかもこういう凄い方たちだから超高速でガラス細工を組み立てているような感じだ。

よくもまあ、こんなに複雑なリズムとか小さいフレーズとか息が合うなあ、と思うくらい。ソロを取ったと思うとすばやくカッティングに周り、主メロディーをハモったかと思うと恐ろしい速さでそのまま二人三人で駆け抜ける。

生ギターの極限まで突っ走るというか、彼らにはそもそも極限がないといったほうがいいのだろうか?

何の工夫もなかった90年代のポップス界のアンプラグドブームなんてのはこれを聞くと思い出すだけで恥ずかしい。

曲調は憂いを含んだ地中海風というか透明度の高い音楽というかそれでもスパニッシュやフラメンコとは違っていて彼ら独自の世界を組み立てている。特に二曲目Beyond the Mirageや四曲目Manha de Carnaval、8曲目Azzuraなどが穏やかな海に面した白亜の家が並ぶ地中海の街の夕暮れという不思議な感じをかもし出している。

誰にも似てない。三人のガラス細工の職人が集まるとこういう感じになるのだろう。

ちょっとフライデイ・ナイト・イン・サンフランシスコと違うのは、あっちはうわー、凄い盛り上がるなあ、生ギターって凄いなあ、人間本当にこんなに早く弾けるのか?という曲が多かったが、こちらはどちらかというと影を強調しているような感じの曲調が多い。影を丁寧に重ねて織り成していくと、時々重ね目にやわらかい日差しが見える。

フライデイ・ナイトと合わせてページの裏と表のような構成になるアルバムだと思う。

最盛期の脂の乗った三人の演奏が聞ける佳作。

[スイングジャーナル誌ランキング:うーん]

[初心者・入門者へのお勧め度:ギター好きだけでなく独自の世界観に浸れる一枚。あえて言えば地中海のビーチの木陰風]




posted by ロック小僧 at 21:18| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ名盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月03日

ジャズ名盤20(1990-2009)第二回発表ベスト5 [Side by Side] 【生涯ジャズが好き!の一枚】

大学院みたいなものが流行っていて生涯教育とか言われているみたいだけど、それって子どもがいなくなって受験者が減った大学が生き残りを画策しているだけみたいに見えてあんまりかっこよくないのよね。




でも確かに人は生涯何かをやりつづけなきゃっていうのは分かるわよ。60歳になったらパッと定年して後のんびり暮らすなんてそんな生活はもうあたしたちの世代には無理っぽいし、きっとやることなくて退屈するだろうし。

Side by Side. Itzhak Perlman and Oscar Peterson.1994. Telarc.

Side by Side
Side by Side

というわけでオスカーピーターソンがクラシックバイオリン奏者のイツァーク・パールマンと作ったこのアルバム。ピーターソンはこの直前に脳梗塞で倒れて、左半身がうまく動かなくなったっていう時期に録音アルバムなんだけど、とてもそれを感じさせないほど軽やかなピアノ。

確かに上から下までだーと走っていくWe get requests[2008年12月12日記事にあるわよ]みたいな全盛期の演奏はないけど、しっかりパールマンのバイオリンを支えて時に絡み合って、時に軽快なソロで表に出てきてすばらしいバランスだわ。

We Get Requests
We Get Requests

それに加えてパールマンのバイオリンの音色がすばらしいわね。ジャズとバイオリンって昔から時々あるフォーマットで、ステファン・グラッペリとジャンゴ・ラインハートとかアルディメオラ・スタンリークラークとやったジャン・リュック・ポンティとか典型かと思うけど、お互いがソロを奪い合ってるようで弦楽器同士だとごちゃごちゃして聞きにくいわ。

やっぱりしっとりとしたバイオリンの弦の響きを最大限に引き出す、そっとバイオリンに寄り添うようなピアノが一番向いていると思うわ。特にパールマンの音色は、すーと伸びてきてどこまでもどこまでも冴え渡っているのよ。このパールマンも実は下半身が不自由な人らしいわね。本当に信じられないわ。

一番いいのはそうね、五曲目Mistyもすばらしいけど、ピーターソンのオリジナルの七曲目Nighttimeかしら。ちょっと陰鬱な思いにふける夜の森を連想させる出だしのテーマからだんだんとジャズらしいスピードとリズムに突入する。典型的な流れかもしれないけど途中で絡んでくるハーブ・エリスのギターソロも良いのよね〜。軽やかなドラムはグラディ・テイトね[11月16日記事で紹介されているわ]

もちろん3曲目Mac the Knifeとか6曲目Georgia on my Mindとかおなじみの曲もいいんだけど、やっぱりお金を出すならオリジナルな曲を聴きたいわよね〜。え?スタンダードを違う演奏者で聞き比べるのも面白いって?いいのよ、そう思う人はそうすれば。好みよ、好み。何か注文つけたいことでもある?

ピーターソンはこの後も左手は往年のスピードには戻らなかったそうだけど、それでも本当にすばらしいわ。生涯ずっとジャズで通した人生。

あこがれる。

[スイングジャーナル誌ランキング:ピーターソンって二枚しかないってないのよねえ…]

[初心者・入門者へのお勧め度:夜になんとなく半分部屋の明かりを消してバイオリンの音色に耳を澄ますのがいいかしら?]




posted by ロック小僧 at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ名盤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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