車で社に帰る夕方のこんなときは、本当だったらちょっとファミレスでも入って二人でお茶を飲むとかすれば元気が出るんだろうが、なにせこちらにそのガッツがない。
法務部兼クレーム処理班兼セクハラ対策班の部長としては、なかなか気楽に女性の部下を飯や飲みに連れて行けない。
こういうときは仕方がないから、元気の出る音楽でもかけよう…カーステレオのCDにちょっといつもとは毛色の違うCDを入れてみる。
隣に座っている女王もどきから今日はどんな罵声が飛んでくるか・・・
「部長・・・これは!」
「来た!」
Blow by Blow. Jeff Beck. 1975. Epic Records.
Blow by Blow

「やりますね、ジェフ・ベックじゃないですか。ジャズを聴こうとする人は身構えてしまって、他の分野の人たちを聞かないようにして、時には軽蔑したりしているもんなんです」
「???(心の声:それは一体、ほめてるの?けなしているの?)」
「でもこのブロー・バイ・ブローはすごいわ。この中のCause We've Ended as Loversなんかは、ジョン・スコフィールドが編集した100 Years of Jazz GuitarのCDにも選ばれてるし。曲名にTheloniusなんていうのもあるし」
「いや、すごいね、ほんと君は良く知ってるね。普通ロック好きはScatter Brainしか聞かないんだよね。変拍子が凄いとかいいながら」
と私がうれしそうに言うと、急にまた彼女の顔がしかめっつらの皮肉屋風になった。
「・・・部長は、なんでまたこんなのを聞いているんですか。部長のJazzの趣味は釣りで言えばあれですね、護岸にメバルを釣りに行ったはずなのに、フグばっかり釣ったり、海岸でキスの投げ釣りをしているはずが、シャコが釣れたり、そんな感じばっかりですね」
「え、い、いや、中学校からロック小僧でギターを弾いてたからね、これも中学で聞いたアルバムだなあ、あの頃あんまり好きじゃなくて、なんか難しい音楽をやる割にはギターのテクニックは今ひとつだな、なんて思ったけど、今聞くとすごいかっこいいね。どの曲もスリリングでリズムが黒くて。いつの時代にも通用するかっこいいアルバムだよね」
「まあ、中学のギター坊やでジェフベックよりうまいのがいたら見てみたいわ」
「・・・い、いやその、実は他のギター御三家のクラプトンやジミーペイジは歌が入っているはずなのに、ジェフベックだけインストなのが、中学生には馴染まなかったのかも」
「まあ、あるアルバムが好きになれない言い訳はいろいろできますわ。でも、部長がギターを弾いていたなんて知りませんでしたわ。あれですね、若いときにJazzが聞けなかったから今あわてて聞いているっていうわけですね。分かりました」
「いや、そういうわけでも・・・いや結構当たってるかも・・・CDの大人買いとか学生時代なんてできないし」
「まあ、いいですわ、どうぞジャズをいろんな角度からお楽しみください。そろそろ地下鉄の入り口だわ。この辺で降ろしてください」
「う、うーん、じゃあ、今度は社でお昼にでもゆっくりとジャズ評を・・・」
「そんな暇はありませんわ。あ、私はどっちかというとジェフベックなら、ロッド・スチュワートが抜けた後のジェフベックグループがかっこいいとは思いますね。それじゃあ」
そういうと彼女はまた地下鉄構内の入り口へと足早に消えていくのであった。
[スイングジャーナル誌ランキング:入っていません。ジャズ・フュージョンとはみなされなかったのでしょうか?]
[初心者・入門者へのお勧め度:かっこよすぎます。リターントゥフォーエヴァーとかラリーカールトンとかよりもかっこよいと思うのはロック小僧の血が騒ぐせい?リズムの取り方とか、最高です]
ラベル:ジェフ・ベック